いわゆる「歯周病内科治療」に対する当院の見解
最近、当院には「歯周病内科治療」を受けたにもかかわらず、歯ぐきの腫れや出血が治らない、歯がグラグラしてきた、口臭が悪化した、と訴えて来院される患者さんが後を絶ちません。
まず最初に、はっきりと申し上げます。
いわゆる「歯周病内科治療」は、国際的にも日本国内の学術的ガイドラインにおいても、推奨されている治療法ではありません。
それは科学的根拠(エビデンス)が存在しないからです。
1. 歯周病治療における国際的なコンセンサス
歯周病は「歯周病原性細菌による感染症」であり、宿主(患者さん)の免疫応答や生活習慣と密接に関わっています。
そのため治療の基本は、
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機械的なプラークコントロール(歯石除去、ルートプレーニング)
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患者さん自身による日常的なブラッシング習慣の改善
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必要に応じた外科処置
であることが、世界的に確立しています。
実際に、**米国歯周病学会(AAP)や欧州歯周病学会(EFP)**のガイドラインでも、歯周病治療の第一選択は「機械的デブライドメント(歯石・バイオフィルムの徹底除去)」であると明記されています(Tonetti et al., J Clin Periodontol. 2018)。
2. 日本歯周病学会の公式見解
日本歯周病学会の治療指針においても、基本治療は「歯石除去とプラークコントロール」であると明確に記されています。
一方、「歯周病内科治療」と呼ばれる方法については、公的学会が推奨していないどころか、ガイドラインにすら記載がありません。
つまり「標準治療」ではなく、私個人としては、科学的根拠のない民間療法の一つととらえています。
3. 「歯周病内科治療」の実態と問題点
「歯周病内科治療」と称される方法には、以下のようなものが含まれます。
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特定の抗菌薬を短期間投与する
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サプリメントや薬用成分を服用する
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特殊な機器を用いた除菌をうたう
一見「最先端」に見える表現ですが、実際には長期的に有効であるという研究および臨床報告は存在しません。
むしろ、抗菌薬の乱用は耐性菌を生み出し、患者さんにとって不利益になる可能性が高いとされています(Heitz-Mayfield & Lang, J Clin Periodontol. 2013)。
また、サプリメントや代替療法についても、国際的に「歯周病を治す」というエビデンスは確認されていません。
4. なぜ「歯周病内科治療」に注意が必要か
多くの患者さんが「短期間で治る」「痛みなく治療できる」という宣伝に惹かれてしまいます。
しかし実際には、根本的な原因である「歯石・バイオフィルム」が除去されないまま放置されるため、歯周病は進行し、歯の喪失に至るケースすらあります。
当院に来院される患者さんの中には、「歯周病内科治療」に高額な費用をかけたにもかかわらず改善せず、むしろ症状が進んでから受診される方が少なくありません。
その結果、治療の難易度が増し、患者さん自身の負担も大きくなってしまいます。
5. 科学的に確立された「正しい歯周病治療」
歯周病は「必ず治る病気」ではありません。慢性疾患であり、継続的な管理が不可欠です。
しかし、世界的に科学的根拠が確立された治療法を行えば、進行を止め、健康な状態を長く維持することは可能です。
具体的には、
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歯科衛生士による徹底したプラークコントロール指導
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スケーリング・ルートプレーニングによる歯石除去
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重症例では歯周外科治療や再生療法
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治療後のメインテナンスによる再発予防
これらはすべて、国内外の学会でエビデンスが確立されている標準治療です。
まとめ 〜犠牲者を増やさないために〜
「歯周病内科治療」という言葉に惑わされ、科学的根拠のない治療を受けてしまう患者さんが少なくありません。
しかし、それは世界的にも認められていない方法であり、歯周病の根本的な解決にはつながらないのです。
私は日本歯周病学会専門医、指導医として、患者様の大切な歯を守るために、正しい知識とエビデンスに基づく治療を受けていただきたいと心から願っています。
どうか安易な宣伝に惑わされず、信頼できる歯周病の専門医にご相談ください。
📖 参考文献:
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Tonetti MS, Greenwell H, Kornman KS. Staging and grading of periodontitis: Framework and proposal of a new classification. J Clin Periodontol. 2018.
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Heitz-Mayfield LJA, Lang NP. Antibiotics in periodontal therapy: A review. J Clin Periodontol. 2013.
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日本歯周病学会「歯周病治療の指針」
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この記事を監修した人山崎 英彦
札幌 歯周病・予防歯科 院長
歯周病治療および予防歯科を重視し、口腔の健康を目標とした治療を心がけています。- 日本歯周病学会指導医
- 日本臨床歯周病学会指導医
- 日本糖尿病学会協力歯科医
- 日本歯周病学会認定研修施設
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