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認知症のある方は「歯周病の自覚症状」に注意|自覚症状だけでは口の状態を判断できない理由

[2026.07.23]

「歯ぐきから血が出ないから、歯周病は大丈夫」「歯が痛くないので、歯医者に行かなくても大丈夫」このように、お口の中に何か症状があるかどうかを健康の目安にしている方は少なくありません。しかし、高齢になるほど、そして認知症がある方ほど、「症状がない=歯周病がない」とは限らないことが分かってきました。

2022年7月(元文献に基づき修正)、世界的な歯周病専門誌である Journal of Clinical Periodontology に、認知症と歯周病の自覚症状について興味深い研究が発表されました。今回は、この研究から分かることと、認知症のある方の歯周病管理で大切なポイントについて解説します。

 

最新研究で判明した認知症高齢者の自覚症状と実際の病状

 

今回紹介するのは、Mamenoらによる研究です。本人が感じている歯ぐきの症状と、実際の歯周病の状態にはどの程度の一致があるのか、そして認知症の有無によってその正確性に違いが出るのかを調査しました。

研究タイトル Self-Reported Periodontal Symptoms and Clinical Periodontal Status in Older Adults With and Without Dementia: A Population-Based Diagnostic Accuracy Study
対象者 75歳以上の高齢者
研究の焦点 本人の訴えが、実際の口腔内の状態をどの程度正確に反映しているか

この研究で非常に重要なのは、単に「認知症の人は歯周病が多い」という関連を調べたものではなく、本人が訴える症状の信頼性を評価している点です。

 

歯周病が「サイレントディジーズ(静かなる病)」と呼ばれる理由

 

そもそも歯周病には、虫歯とは大きく異なる特徴があります。歯周病は、歯を支えている歯ぐきや歯槽骨に慢性的な炎症が起こる病気ですが、かなり進行していても自覚しにくい側面があります。

  • 痛みがほとんどない
  • 歯が揺れていても気づかない
  • 歯ぐきからの出血を自覚していない
  • 口の中の変化を年齢のせいと考えてしまう

つまり、歯周病はもともと「自覚症状だけでは発見しにくい病気」なのです。今回の研究は、この問題が認知症のある高齢者ではさらに顕著になる可能性を示しています。

 

認知症の方における「自覚症状」と「実際の状態」の乖離

 

認知症がある場合、歯ぐきからの出血や歯の違和感などを本人が正確に認識したり、周囲に伝えたりすることが難しくなる場合があります。また、たとえ症状があったとしても、いつから始まったのか、どの程度なのかを説明することが困難なケースも少なくありません。

そのため、「本人が何も言わないから大丈夫」と判断することには注意が必要です。特に高齢者では、歯科医院での実際の診察を通じて、以下の項目を確認することが重要になります。

確認項目 歯周ポケットの深さ、出血の有無
確認項目 歯の動揺(グラつき)、プラークの付着状況

 

症状が出る前の「定期的なチェック」が健康維持のカギ

 

この研究から私たちが考えるべきなのは、認知症のある方だけに特別な歯磨きを強いることではありません。むしろ重要なのは、本人の訴えだけに頼らず、定期的に口腔内を確認することです。

歯周病は、早期であれば専門的なクリーニングや歯石除去によって炎症をコントロールできる可能性があります。しかし、放置して進行すると歯を支える骨が失われ、最終的には抜歯を余儀なくされる場合もあります。

特に高齢者では、歯を失うことによって「噛む」「食べる」「話す」といった口腔機能にも悪影響が及びます。「痛くなってから歯科へ行く」のではなく「症状がなくても定期的に確認する」という意識が大切です。

 

認知症と歯周病の深い関係:全身の健康への影響

    

近年、歯周病と認知機能との関係についても、多くの研究が行われています。以下の表は、近年の研究報告の概要です。

歯周治療と認知機能 治療を受けた人は、受けなかった人と比較して認知機能低下や認知症発症が少なかったとの報告がある
歯の喪失と認知機能 歯の喪失が言語、注意、記憶、実行機能など複数の認知領域の低下と関連していることが報告されている

これらの研究を考えると、歯周病を単なるお口の病気として捉えるのではなく、高齢期の健康を支える口腔管理の一部として考えることが非常に重要です。

ご家族や介護者がチェックしたい「お口の変化」

認知症のある方の場合、ご本人だけでお口の管理を行うことが難しくなることがあります。ご家族や介護されている方は、以下のポイントを確認してみてください。

  • 歯磨きが以前よりおろそかになっていないか
  • 歯ぐきが赤く腫れたり、出血したりしていないか
  • 口臭が以前よりも強くなっていないか
  • 食事の際に噛みにくそうにしたり、硬いものを避けたりしていないか
  • 歯がグラグラしていたり、入れ歯を使わなくなったりしていないか

本人が「痛くない」と言っていても、水面下で歯周病が進行している可能性を常に考慮する必要があります。

 

まとめ|「痛くないから安心」を卒業しましょう

 

今回の研究が教えてくれる最も大切なポイントは、「本人の自覚症状だけでは、認知症のある方の歯周病の状態を十分に判断できない」ということです。

歯周病は、症状が乏しいまま進行する病気です。だからこそ、痛くなってから治療するのではなく、症状がなくても定期的に専門的なチェックを受けることが、お口と全身の健康を守る近道になります。

特に認知症のある方では、ご本人の訴えに加えて、ご家族・介護者・歯科医療者が連携して管理していくことが不可欠です。「歯を守ることは、食べる力を守ること」であり、それは高齢になっても自分らしく生活するための基盤となります。

当院では、お一人おひとりの状態に合わせた予防プログラムをご提案しています。「最近、食べ方が変わった気がする」「口臭が気になる」といった小さな変化でも構いません。まずは一度、定期的にお口の状態を確認することから始めてみましょう。


参考文献

Mameno T, Otsuki N, Takeuchi S, et al. Self-Reported Periodontal Symptoms and Clinical Periodontal Status in Older Adults With and Without Dementia: A Population-Based Diagnostic Accuracy Study. Journal of Clinical Periodontology. 2022. DOI: 10.1111/jcpe.70168.

この記事を監修した人
山崎 英彦

札幌 歯周病・予防歯科 院長
歯周病治療および予防歯科を重視し、口腔の健康を目標とした治療を心がけています。

  • 日本歯周病学会指導医
  • 日本臨床歯周病学会指導医
  • 日本糖尿病学会協力歯科医
  • 日本歯周病学会認定研修施設

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