子どもの「よく咬む習慣」は、体のバランスや運動にも関係する? 最新研究から考える咀嚼の大切さ
よく咬んで食べましょう。子どもの頃から、よく耳にする言葉です。
食べ物をしっかり咬むことは、食べ物を細かくして飲み込みやすくするために大切です。しかし、咀嚼(食べ物を咬むこと)には、それ以外にも大切な役割があることをご存じでしょうか。
成長期の咬む刺激と脳の働き、体の動きとの関係に注目した研究が発表されています。今回は、マウスを使った研究をもとに、子どもの成長と咀嚼の関係についてわかりやすくご紹介します。
やわらかい食事を続けると体のバランスに影響する?
海外の学術誌において、成長期にやわらかい食事を与えると小脳の働くタイミングが乱れバランス能力に影響するという研究報告が発表されました。
研究では、成長期のマウスに硬い餌とやわらかい餌を与え、体の動きや脳の働きの違いを調査しました。その結果、成長期にやわらかい餌を与えられたマウスでは、バランスを保つ能力に影響がみられ、脳の一部である小脳の神経細胞の活動にも変化が認められました。
この研究はマウスを対象とした基礎研究であり人間の子どもに同じことが起こると証明されたわけではないという点には注意が必要です。それでも、日々の食事や咀嚼が脳や身体の発達とどのように関係しているのかを考えるうえで、非常に興味深い研究といえます。
「咬むこと」と脳にはどんな関係があるの?
私たちが食事をするとき、何気なく食べ物を咬んでいます。しかし、実際には歯だけで咬んでいるわけではありません。
顎の筋肉、舌、歯の周りの組織などから情報を受け取りながら、脳が身体の動きを細かく調整しています。
例えば、硬い肉を咬むときとやわらかい豆腐を食べるときでは、顎にかかる力や動かし方が異なります。私たちは食べ物の硬さや大きさを感じ取り、それに合わせて自然に咬む力をコントロールしています。
このように、咀嚼は単に食べ物をつぶすだけでなく、脳と筋肉と感覚が連携して行う複雑な運動です。
小脳は体のバランスを調整する大切な器官
研究で注目された小脳は、脳の後ろ側に位置する器官です。体の動きをスムーズにしたり、姿勢やバランスを保ったりする重要な働きを担っています。
小脳は、日常のさまざまな動作に関係しています。
- 自転車に乗る
- 走る
- ボールを投げる
- 片足で立つ
- 階段を上り下りする
これらの動作を適切に行うためには、筋肉を動かすだけでなく、体の位置や動きを感じ取り、適切なタイミングで微調整を行う小脳の働きが欠かせません。
研究では、やわらかい餌を与えられたマウスにおいて、小脳の神経細胞が活動するタイミングに乱れがみられました。神経細胞は互いにタイミングを合わせながら活動することが重要であるため、咀嚼刺激が小脳の機能やバランス感覚の発達に関わっている可能性が示唆されています。
成長期に「咬む経験」が大切な理由
子どもの成長期には、骨格や筋肉だけでなく、脳や神経系も急速に発達します。
食べ物を口に入れて硬さや形を感じ、歯や舌、顎を適切に動かして食べるという一連の動作は、口の感覚や機能を育てる大切なトレーニングです。
今回の研究からも、咀嚼による刺激が口の機能だけでなく、体の動きをコントロールする神経回路の発達にも関与している可能性がうかがえます。
ただし、硬いものを無理に食べさせれば運動能力が向上するという単純な話ではありません。大切なのは、子どもの発育段階やお口の状態に合った食事を安全に楽しむことです。
家庭でできる「咬む習慣」を育てる工夫
日々の食事において、健康的な咀嚼習慣を育むためのポイントをご紹介します。
いろいろな食材や食感を楽しむ
野菜、肉、魚など、多様な食材を毎日の食卓に取り入れましょう。子どもの年齢や発達段階に合わせて適切な硬さや大きさに調理し、多様な食感を経験させることが大切です。
無理に硬すぎるものを与えると窒息や歯の破折のリスクがあるため、安全に咀嚼できる適切な形態を心がけましょう。
急がず、落ち着いて食べる
食事の時間は、落ち着いてゆっくり食べられる環境づくりが大切です。
「〇回咬みなさい」と回数を強制するよりも、食べ物の味や食感をじっくり味わいながら自然に咀嚼する習慣を促しましょう。家族で食卓を囲み、楽しく会話をしながら食べることも良い食習慣の形成につながります。
歯や口の状態を確認する
むし歯や歯肉の炎症、歯並びの乱れなどがあると、しっかり咬むことが困難になります。
次のような様子が見られる場合は、一度歯科医院を受診してみましょう。
- いつも左右のどちらか片側だけで咬んでいる
- 極端に硬いものを嫌がる
- 食事に極端に時間がかかる、または丸飲みしてしまう
歯科医療から考える「咬むこと」の大切さ
歯科医院の役割は、むし歯や歯周病の治療だけにとどまりません。生涯にわたり食べる機能を守り、健全な口腔機能を育成することも重要な役割です。
健康な歯列と正常なお口の動きは、日々の充実した食事と全身の健康を支える土台となります。
今回の研究は基礎研究の段階ですが、成長期における適切な咀嚼刺激の重要性を再認識させてくれます。正しい知識を持ち、日々の食事とお口のケアを見直してみましょう。
まとめ
よく咬むことは、食べ物を細かくして消化を助けるだけでなく、脳や神経、筋肉が連携して働く全身の健康に関わる行為です。
子どもの健やかな成長を支えるためには、以下の要素が重要となります。
- 栄養バランスの整った食事
- 発育段階に応じた適切な硬さや食感
- むし歯のない健康なお口の環境づくり
毎日の食事をお口の健康と全身の成長を育む大切な機会として捉え、楽しい食卓づくりを意識してみましょう。お子さまの歯並びや咬み方、食べ方について気になる点がある場合は、かかりつけの歯科医院へお気軽にご相談ください。
